はじめに
この記事では、作業解像度の考え方を詳しく解説するとともに、制作全体を通して、映像のサイズ調整をする際の推奨事項を紹介します。Netflix作品において必須とされているわけではありませんが、作業解像度を決めておくと、映像のサイズ調整に関して部署間で齟齬が生じるのを防ぐことにつながります。その結果、作業が円滑になり、ワークフローの効率が上がります。また、映像の乱れが発生するのを防ぐこともでき、最終納品やアーカイブといった作業がより簡単になります。
Netflixは制作関係者と協力しながら、作品固有のワークフロー構築を支援しています。ご自身の作品の事項について質問や心配な点がある場合は、Netflix担当者までご連絡ください。
作業解像度に関する基本的な事柄については、「Framing & Working Resolution Calculator: ユーザーガイド」をご参照ください。
目次:
作業解像度の役割
1台のカメラで撮影される作品であっても、制作過程ではさまざまな解像度やアスペクト比が使用されるものです。オリジナルカメラファイル (OCF) の解像度は、撮影で意図した画角と解像度とは異なることが多いでしょうし、VFXチームから画角の調整やより正確なトラッキングのため、画にセーフティを確保する要望もあるかもしれません。また、作品の納品解像度が本編の有効な映像の解像度と異なる場合もあります。
サイズ調整のワークフローは、撮影後に必要となる編集素材、クリエイティブレビュー用のデイリー、VFXの素材出し、アーカイブの要件などを考慮するとさらに複雑になります。
作品の作業解像度が決まると、サイズ調整時の基準が明確化され作業が簡単になります。異なる解像度を1つのコンテナ解像度に統一することで制作の過程で行われる映像のサイズ調整作業を限りなく減らすことができます。さらに作業解像度を決めることでOCFから最終納品までのサイズ調整作業が1回で済むようになります。これにより、ポストプロダクションで情報が不十分なまま作業が進んでしまい、映像の乱れが発生するようなことが避けられます。作業解像度を決めておくことで、映像のパイプラインに関わるスタッフは、サイズの調整がバラバラになったり、VFXの素材出しを複数回行うことになったり、部署間で齟齬が発生するといった心配なく作業することができます。
作品の作業解像度を決めておくと、以下のようなメリットがあります。
- 納品物の画角を調整する際の仕様をデイリーチームが把握できます。
- 撮影で意図した有効な映像が編集素材に必ず映っているため、編集チームが安心して作業できます。
- 最終グレーディングチームが単一のタイムラインまたは作品用解像度を使用して作業ができるので、さまざまなレンダリングや納品形式に合わせた映像の配置が簡単に行えます。
- VFXチームが受け取って納品するVFX素材の解像度が統一されるため、作品に必要な映像を切り取ってしまっていないかを心配する必要がなくなります。
作業解像度には、作品ごとに決められる数字、また各作品で共通して使える制作方法論という、2つの側面があると考えてください。作業解像度については、プリプロダクションの段階で検討を始めてください。
作業解像度の決め方は実例を見るとわかりやすくなりますが、まずは基本的な用語について確認していきましょう。
作業解像度に関する用語集
収録映像に関する説明では、以下の用語が使用されます。
OCF: OCFはオリジナルの撮影済み素材を指します。OCFの解像度は、収録解像度やセンサー解像度と呼ばれることもあります。
有効映像域: OCFのうち、撮影時に意図的にフレーミングされている部分で、最終的に視聴者が作品として目にする領域のことを指します。この部分が本編の映像になります。場合によってはOCF全体がそのまま有効映像域となることもありますが、通常はOCFをトリミングして有効映像域とします。
納品解像度: 上映に使用するメインの納品物の解像度を指します。Netflixでは通常、UHD (3840x2160) のIMFがこれにあたります。
セーフティ: 撮影をする際、OCFの解像度が納品物の解像度よりも高い場合は、有効映像域の周りにセーフティを追加することもできます。セーフティがあることで、後の制作過程で行うスタビライズ処理、画角調整などの各種ポスプロ作業が容易になります。後ほどご紹介する例では、5%のセーフティが設けられているケースがほとんどです。セーフティは、"セーフティ枠"または"安全フレーム"と呼ばれることもあります。英語では、"セーフティクロップ"や"サラウンドビュー"とも呼びます。
有効映像の最終解像度: 納品解像度に収まっている有効映像の解像度を指します。有効映像のアスペクト比が、最終納品物のアスペクト比と異なる場合は、レターボックスまたはピラーボックスを適用します。
ここまで、画角の調整について基本的な用語を確認してきました。ここからは、実際の例を紹介しながら作業解像度の決め方について説明します。
フレーミングチャートから始める
作業解像度を決める前に、まずメインカメラで撮影したフレーミングチャートを確認し、映像の要素ひとつひとつの位置を検証します。
フレーミングチャートとその使い方については、「フレーミングチャートのベストプラクティス」をご参照ください。
例A
まず、OCF解像度と納品解像度が一致する、単純なケースから説明します。
1台のカメラを使用する作品で、Panasonic Varicam PureをUHDセンサーモードで使用し、出力アスペクト比は16:9であると想定します。スタジオが指定する最終納品物の仕様は、3840x2160のUHD IMFです。この場合、OCFの収録解像度はIMFの解像度と一致するため、サイズ調整やトリミングの必要はありません。
したがって、この作品の作業解像度はOCFの解像度と同じになります。
例B
次の例では、撮影監督がUHDよりも高い解像度で撮影することを決めたので、セーフティ
を設けることができました。
この撮影では、Panasonic Varicam Pureを4K DCIセンサーモードで使用し、最終的なアスペクト比は2.00:1となる予定です。
今回はOCF内のUHDのセンタークロップになるようフレーミングをします。こうすることで、最大6%のセーフティ (4096 x 0.94 ≒ 3840) が確保できます。
OCFから最終納品のIMFにするために、センタークロップして幅を3840とし、レターボックスを足してアスペクト比を2.00:1にします。ポスプロの工程で画角調整とスタビライズ処理を行う際、収録した映像全体を使えるようにするため、この例の作業解像度は有効映像域にセーフティを加えた4096x2160となります。
例C
ここまでセーフティがどういったものか見てきました。ここからは、よくある少し複雑なケースについて考えていきましょう。
作品で使用するカメラはARRI Alexa LF1台で、Open Gateセンサーモードで撮影し、出力アスペクト比は2.00:1であると想定します。撮影監督はポスプロでの処理に備えて5%のセーフティを追加しており、スタジオが指定する最終納品物の仕様は3840x2160のUHD IMFです。
すでに説明したとおり、まずはフレーミングチャートを確認して、OCF内の各映像領域がどの部分か把握します。
- 赤色の線で囲まれた部分は、OCFの収録映像全体を表しています。この領域が、作業解像度にサイズ調整された後に表示される最大の映像となります。
- 黄色の線で囲まれた部分は、作業解像度に設定できる映像の最小サイズです。ここでは、有効映像に5%のセーフティを加えた大きさになっています。
- 青色の線で囲まれた部分は有効映像域です。収録映像の一部で、最終的に視聴者に表示する予定の部分です。
- 青緑色の線で囲まれた部分は、IMF納品で指定される16:9のアスペクト比にあたる部分です。
以上が、作品の制作過程で使用される解像度の種類です。次に、あらゆるサイズ調整作業の基本となるコンテナの作業解像度を計算しましょう。
作業解像度の決定
VFX素材、最終版VFX、アーカイブ用納品物には、なるべく収録した映像のサイズに近い、広い画が必要になります。そのため、納品解像度 (通常はUHD) のセンタークロップが、要求される有効映像域となるよう、OCF全体をサイズ調整したものが作業解像度になります。
注意: この例では、アスペクト比が2.00:1であるため、本編の有効映像の解像度 (3840x1920) はIMF納品物の解像度 (3840x2160) よりも小さくなります。そのため、IMFのコンテナでは、有効映像はレターボックス化された状態となります。
まずは、解像度の幅から計算しましょう。元々のフレーミングチャートでは、センサー映像の5%のセーフティ (赤色の線) がIMF映像 (青緑色の線) の外にあるため、作業解像度は、IMFの幅に5%のセーフティを加えた値にする必要があります。
[IMFの幅] / (1-[セーフティの割合])
3840 / 0.95 ≒ 4044
高さには、OCF全体のアスペクト比を使用します。そうすることで、VFX/アーカイブのレンダリング向けに最大限の解像度を得ることができます。Alexa LFの場合、このアスペクト比は約1.44:1となります。したがって、計算式は以下のようになります。
[作業解像度の幅] / [OCFのアスペクト比]
4044 / ~1.44 ≒ 2814
注意: 話をわかりやすくするため、ソースのアスペクト比はおおよその値 (この場合は1.44:1) としていますが、実際のアスペクト比は4448 / 3096 = 1.4366925…となります。また、不完全なピクセル数でデジタル映像を作成することはできないため、ピクセル数が奇数だとポスプロで使用するソフトウェアで正しく動作しない場合があります。そのため、Netflixの計算方法では、算出された数値を最も近い整数となるよう四捨五入し、その結果が奇数であれば、切り上げて最も近い偶数となるようにしています。
作業解像度が決まった後、最終的な映像の解像度でセンタークロップすると、IMF納品解像度の範囲内で、制作意図の有効映像ができあがります。
この作業解像度を使えば、制作のあらゆる工程で納品物のサイズ調整を簡単に行うことができます。
- 編集用ラッシュについては、3840x2160になるようセンタークロップを行い、サイズを縮小してHDにします (編集チームが必要に応じて使えるように上下のセーフティを一部残します)。
- レビュー用のデイリーについては、センタークロップをして有効映像を作り、サイズを縮小してHDまたは720pにします (レターボックス化して有効映像域を作ります)。
- UHD IMFについては、センタークロップして有効映像を作ります (レターボックス化して有効映像域を作ります)。
- VFXの素材出しやアーカイブ用のレンダリングを作業解像度で出力する際には、トリミングやサイズ調整を行う必要はありません。
ここまで作業解像度の使い方を説明してきました。ここからは、作業解像度の選び方や特別な事例について詳しく見ていきます。詳しい解説が必要ない場合は、実際にFraming and Working Resolution Calculatorを使用して作業解像度を計算してみましょう。
最低作業解像度
一部の作品では、カメラやOCFの解像度によっては、制作意図の有効映像の外側部分が、収録した情報の30%以上を占める場合があります。このような場合、余分な映像領域すべてを作業解像度に含めるメリットより、追加の情報をレンダリングして保存する負担の方が大きいと判断されることもあるでしょう。そういった場合は、最低作業解像度を算出する選択肢もあります。
最低作業解像度はトリミングの割合を調整した映像のことを指し、データレートを低くおさえつつ、画角調整やスタビライズ処理をする余地を残すことができます。
これまでご紹介した事例の中で最低作業解像度が計算される場合でも、5%のセーフティは同じように含まれるため、幅の計算式はこれまでと変わりません。
[IMFの幅] / (1-[セーフティの割合])
3840 / 0.95 ≒ 4044
高さについては、センサー映像すべてを含めるのではなく、5%のセーフティまでにとどめます。そのため高さは、幅と同じような計算式で求められます。
[IMFの高さ] / (1-[セーフティの割合])
1920 / 0.95 ≒ 2022
この場合、作業解像度は以下のようになります。
算出した最低作業解像度と最大限の作業解像度を比較することで、ワークフローの効率が上がるか、単に不要なデータが増えるだけなのか見極めることができるようになります。ここで説明している作業解像度とはあくまでも推奨するワークフローのひとつであり、要件や仕様ではないことにご留意ください。
特別な事例
サブカメラについて
サブカメラを使用する場合も、作業解像度についての考え方は同じです。作業解像度はメインカメラを基に決めてください。サブカメラで収録されるデータは、メインカメラよりも多い場合も少ない場合もありますが、作業解像度は有効映像の納品物が基準になるため、サブカメラもそれに合わせます。
作業解像度は制作のさまざまな段階で、柔軟に決めることができます。撮影期間中に新しいカメラを追加した場合は、サイズ調整の必要性を考慮して作業解像度を再計算しても構いません。
たとえば、上記の例のようにAlexa LFのOpen Gateモードで撮影しており、さらに以下のような2台のサブカメラも使用しているとします。
- Sony Veniceを使用しOCF解像度6054x3192にて撮影。メインカメラと同様に、撮影監督はアスペクト比2.00:1でフレーミングし、5%のセーフティを含めた。
- RED Komodoを使用してOCF解像度6144x3240にて撮影し、アスペクト比2.00:1でフレーミング。カメラはドローンに取り付けられるため、撮影監督は5%のセーフティを入れない。その代わりに、センサー幅全域を使ったフレーミングをすることにした。
OCFにおける有効映像域の解像度はさまざまな値をとりますが、納品物の有効映像域は常に一定です。
これまでの例と同じように、Alexa LFをメインカメラとして使用して、作業解像度を決めることができます。
Alexaをメインカメラに選んだため、サブカメラの素材を作業解像度にサイズ変更すると、上下 (Venice) または周囲 (RED) に黒帯が入ります。
納品される有効映像解像度のセンタークロップ部分は、やはり制作意図の有効映像となります。有効映像域とセーフティはそのままであり、OCFから最終納品までの間でサイズ調整作業を1度行えば、異なった解像度が統一されます。
Veniceをメインカメラとした場合も同じ処理が適用されます。ただし、Alexa LFで撮影された映像は、OCFから作業解像度にサイズ調整する際に黒帯が入らず、クロップされることになるため、映像の情報が一部失われます。
複数のメインカメラを使用する場合
メインとなる収録形式を2種類以上使用する作品の場合は、共通の基準となる解像度を考える必要があります。そういったケースでは、技術的なポイントを議論したうえで、いくつか段階を踏んで作業解像度を決める選択肢もあります。このワークフローを希望する場合は、Netflixに連絡して手順や方法を確認してください。
アナモフィック収録の作業解像度
アナモフィックレンズで撮影する場合、作業解像度はデスクイーズしたサイズで算出してください。方法は、球面レンズで撮影する場合とだいたい同じですが、考慮すべき点がいくつかあります。
たとえば、作品をRED Heliumの8K 6:5センサーモードで撮影するとします。アナモフィックレンズを使用する予定で、出力アスペクト比2.00:1に対して、圧縮率が2xであるとします。撮影監督はポスプロ用に5%のセーフティを追加しており、最終納品解像度は3840x2160のIMFとなります。
サイズ調整の作業をなるべく少なくするため、最終納品解像度までサイズを縮小しつつ、デスクイーズします。この例では、納品物は3840x2160のUHD IMFとなります。
フレーミングチャートをデスクイーズしたら、その値を利用して作業解像度を算出します。
通常、アナモフィック収録の有効映像は、幅よりも高さの方が長くなります。これは、先ほどの例で見たAlexa LFと球面レンズの組み合わせで撮影した場合とは逆になります。そのため、作業解像度を計算する際は、高さを先に求めてください。
注意: OCFのアスペクト比 (デスクイーズ後) の幅が、有効映像のアスペクト比よりも広い場合は、高さを先に計算してください。OCFのアスペクト比の高さが、有効映像のアスペクト比よりも高い場合は、幅を先に計算してください。
デスクイーズされたフレーミングチャートには、センサー映像から最終の映像まで、5%のセーフティが含まれます。そのため、作業解像度は、最終の映像に5%のセーフティを含めた高さとする必要があります。
[IMFの高さ] / (1-[セーフティの割合])
1920 / 0.95 ≒ 2022
幅については、OCF全体のアスペクト比を使います。そうすることで、VFX/アーカイブのレンダリング向けに最大限の解像度を得ることができます。RED Heliumをこのセンサーモードで使う場合、アスペクト比は1.20:1となります。しかしアナモフィックレンズで撮影する場合は、使用するアナモフィックレンズの圧縮率を考慮する必要があるので、アスペクト比に圧縮率を掛けなければなりません。
[作業解像度の高さ] x [OCFのアスペクト比] x [圧縮率]
2022 x 1.2 x 2 ≒ 4852
あるいは、最低作業解像度を算出する場合は、5%のセーフティで計算を行います。
[IMFの幅] / (1-[セーフティの割合])
3840 / 0.95 ≒ 4044
すると、作業解像度は以下のようになります。
Framing and Working Resolution Calculatorを使うと、さまざまな圧縮率のレンズに対し作業解像度を計算することができます。Anamorphic Minimum Capture Resolution Calculatorは、アナモフィックレンズでの撮影を行う際に役立ちます。
場合によっては、VFXの担当者が圧縮したままの映像で作業することもあります。そういった場合はたいてい、VFX素材はソースの解像度になります。VFXから戻ってくる映像は、ソースの解像度 (圧縮されたまま) か作業解像度 (合成処理の際にデスクイーズ済み) のどちらかになります。
Netflixは制作関係者と協力しながら、作品固有のワークフロー構築を支援しています。ご自身の作品の事項について質問や心配な点がある場合は、Netflix担当者までご連絡ください。
VFXで最大センサー解像度を使う場合
作品の制作における作業の大半は、作業解像度の映像で十分な情報が得られる場合がほとんどです。しかし状況によっては、一部のVFX作業で作業解像度以上の情報を含んだ映像が必要になることもあります。その場合はOCFを使い、もともと収録されたソースの最大解像度でプレートを作成してください。