はじめに
本書では、Netflixメディアプロダクションスイート (MPS) のツールを使用して映像・音声素材を処理する際の技術的な要件およびワークフローの依存関係について説明します。自動化された動作を開始するために必要な対応のロードマップを示すとともに、そうした対応がなされなかった場合の「デフォルト」の処理についても説明します。
また、各エリア (色、フレーミング、メタデータなど) でのツールの動作に関する重要な仕様も取り上げます。
このガイドを、ワークフローの各段階の担当チーム (DITチーム、録音チーム、ポストプロダクションチーム) と共有し、制作意図が維持されるようにしてください。
Netflixは制作関係者と協力しながら、作品固有のワークフロー構築を支援しています。ご自身の作品に固有の事項について質問や心配な点がある場合は、Netflix担当者までご連絡ください。
クイックスタート: デフォルトのルール
特定の値が入力されていない場合、MPSツールでは以下のデフォルトの動作が適用されます。
| カテゴリ | 入力 | デフォルト (入力がない場合) |
| 色 | カスタムのルックの場合はAMFを使用 | デフォルトのACES 709でのルック/出力 |
| フレーミング | カスタムの抽出の場合はASC-FDLを使用 | ソースの最大サイズ (納品コンテナに収まるよう調整) |
| 音声の同期 | 48 kHz/24ビットのポリフォニックBWAVをカメラロールと一緒に納品し、録音音声と録画映像のタイムコードを一致させる | カメラロールとの自動同期なし |
| ショットの命名と選択 | BWAVに埋め込まれた一貫性のあるiXMLメタデータ | 元のファイル名でショットを納品 (選択/サークルテイクのマーキングは無し) |
| 色の意図の検証 | リファレンス画像 (各クリップに1つ) をJPEGまたはTIFFで提供 | 色の意図の検証は無し |
目次:
要件
技術的操作:
コンテンツハブのプロジェクトレベルの設定:
制作チームは、コンテンツハブでの作品のプロジェクト設定が正確に完了されていることを確認する必要があります。これらの設定 (プロジェクトのフレームレート、カラーサイエンス、必要な納品物など) は、技術的なパイプラインの基盤となるものであり、処理が開始される前に確定していなければなりません。
カメラフォーマットの設定:
MPSツール内でのカメラフォーマットの設定に関する責任は、制作チームの特定のメンバーまたは協力ベンダー (ポストプロダクションスーパーバイザー、映像仕上げベンダーなど) に明確に割り当てます。新しいカメラフォーマットが登場したときは、ツールで納品物に合わせて対応できるように、そのカラーパイプラインとフレーミングを設定する必要があります。
新しいカメラフォーマットは、以下の各要素の組合せに応じて作成されます。
- カメラレター
- ソースカメラ (カメラの機種)
- ビデオコーデック
- 解像度
- レンズの圧縮率
カラーマネジメント
MPSツールからレンダリングされたメディアはすべて、ACESのパイプラインを使用します。そのため、制作ワークフローはこの規格に対応している必要があります。
- NetflixのデイリーではACESパイプラインが必須です *
- VFX素材切出し (VFXプル) は、ACES 2065-1 (AP0) 16ビット浮動小数点のEXRで納品されます。そのため、制作ワークフローはこの納品に対応する必要があります。**
どのカメラフォーマットでも、納品物をレンダリングするために定義されたACES入力デバイストランスフォーム (IDT) が必要です。多くの場合、このツールでは自動的に正しいトランスフォームが選択されます。一般的なIDTが複数提示されるほか、ユーザーがカスタムのIDTをアップロードすることもできます。
* 付録を参照
** VFXプルのEXRはSMPTE ST 2065-4規格に準拠
オプションの依存要素 (ワークフローによる):
色
簡単な説明:
カスタムのルック/色決定が必要な場合は、AMFを使用します。AMFを使用しない場合、ツールでは、デフォルトのACES 709でのルック/出力を使用して画像がレンダリングされます。
AMF (ACESメタデータファイル)
AMFは、Netflixのデータベースにショットごとの色決定を追加する唯一の手段です。Netflixでは、AMF経由でのみ、CLF (LUT) と各ショットのCDLの関係をデータベースに保存します。そのため、ワークフローではこの点を考慮に入れる必要があります。
AMFのカラーメタデータは、次のレベルで適用可能です。
- ショットレベル (映像インジェストツールからショットと一緒に納品)
- 近日対応予定: カメラフォーマットレベル ([Project Settings] > [Camera Formats]で設定)
- 近日対応予定: プロジェクトレベル ([Project Settings] > [General]で設定)
AMFがサポートしている色操作のみが可能であり、時間的または空間的な変換はできません (テクスチャ、グレイン、ハレーション、ブラー、シャープ、プラグイン、ウィンドウなどは不可)。これらのどのレベルでもカスタムの色決定が定義されていない場合は、適用可能な場合、デフォルトのACES 709でのルック/出力を使用して画像がレンダリングされます。
フレーミング
簡単な説明:
カスタムのフレーミングが必要な場合は、ASC FDLを使用します。FDLを使用しない場合、ツールでは、ソースの解像度とアスペクト比が制作意図のフレーミングであると解釈されます。
FDL (フレーミング決定リスト)
FDLは、Netflixのデータベースにフレーミング決定を追加する唯一の手段です。Netflixでは、FDLの値経由でのみ、フレーミング決定をデータベースに保存します。そのため、ワークフローではこの点を考慮に入れる必要があります。
FDLの値は次のレベルで適用可能です。
- カメラフォーマットレベル ([Project Settings] > [Camera Formats]で設定)
- 近日対応予定: 各ショットレベル (各ショットの個別のFDLをカメラファイルと一緒にアップロード可能)
カスタムの抽出やスケーリングを行う予定であれば、FDLを使用する必要があります。
これらのどのレベルでもカスタムのフレーミング決定が定義されていない場合は、納品コンテナに収まるよう調整されたソースの最大サイズでレンダリングされます。
音声の同期
簡単な説明:
音声とカメラロールを自動的に同期させたい場合は、サウンドロールを、48 KHz/24ビットのポリフォニックBWAVとして、関連するカメラロールと一緒に映像インジェストから納品します。このように納品しないと、音声はカメラロールと自動同期されません。
音声ファイルの仕様は次のとおりです。
- BWAV (ブロードキャストウェーブフォーマット)
- ポリフォニック
- 48.000 KHz
- 24ビット
音声の同期ロジック:
MPSツールは、各種テクノロジーを階層的に組み合わせてビデオと音声のアセットを同期します。以下に、システムが使用している主要機能と、最適な結果を得るためのアドバイスを紹介します。
-
タイムコード: ツールがカメラファイルと音声ファイルを同期する際に最初に参照する要素です。
- MPSによるカメラファイルと音声ファイルの自動同期を実現するには、カメラと音声の両方のレコーダーが、一貫性のある共通のタイムコードソースに同期 (「ジャムシンク」) されている必要があります。
- タイムコードメタデータが一致しない、または欠落している場合、ポストプロダクションで手作業による同期が必要になることがあります。
-
認識できるスレート: タイムコードに加えて、MPSでは、認識できるスレートの「合図」を利用することもあります。目に見える「スレートが合わさる箇所」(ビデオソース) と音声ピークの分析 (音声ソース) を基に、映像と音声を自動的に合わせることができます。
- タイムコードが一致しない場合や、ソース間に同期ずれ (ドリフト) がある場合でも、この機能によって正確な同期が可能になります。
- この機能が正しく動作するには、認識できるスレートの合図が必要です。この合図がない場合はタイムコードのみが使用され、タイムコードのドリフトについては検証されません。また、音声の同期が自動的に修正/調整されることもありません。
メタデータ - ショットの命名と選択マーク
簡単な説明:
MPSのメディアライブラリ (および納品物) 内のショットは、シーン、スレート、テイクの値を使用して命名されます。そのためには、納品されるサウンドロールのBWAVファイル内に関連するiXML*メタデータが含まれており、かつ、一貫性のある命名パターンが使用されている必要があります。このメタデータがない場合、ショット名は元のファイル名のままとなり、サークルテイク/選択マークは付けられません。
ショットの命名ロジック:
ショット名の要素は、BWAVのiXMLメタデータのシーンとテイクのフィールドから抽出されます。
BWAVのiXMLメタデータのシーンフィールドのみ使用する場合は、シーンとテイクの各フィールドの間にアンダースコア (_) またはハイフン (-) が挿入された形式を維持するようにしてください。たとえば、シーンフィールドにスレートとシーンの番号を追加する必要がある場合、ラベルの一貫性を維持して番号を区切ります。
例: 25_01 (シーン番号_スレート番号).
PU、RTKなどの文字を追加する場合も、その位置と方法について一貫性を保ってください。また、フィールドの通常の値と追加する文字の間には、必ずアンダースコア (_) またはハイフン (-) を挿入します。
例: 01-PU (「01PU」とはしない)
選択マーク/サークルテイクのマーキングロジック:
MPSでは、メディアライブラリ内や、互換性のある納品物 (例: ALEファイルと編集用メディア) に選択マーク/サークルテイクを付けることができます。
選択マーク/サークルテイクのマーキング方法:
- 選択マーク/サークルテイクの情報は、納品されるサウンドロールのBWAVファイル内の、iXMLメタデータの“Circled”フィールドから抽出されます。
- 近日対応予定: 追加のソース
*iXMLメタデータ: https://www.gallery.co.uk/ixml/
メタデータ - レンズメタデータ
簡単な説明:
フレーム単位のレンズエンコーダーメタデータは、Netflixのデータベースに保存し、VFXに伝えるために、ソースビデオファイルに埋め込まれている必要があります。現在のところ、コンテンツハブMPSのショットのデータに外部エンコーダーメタデータを追加して同期する方法はありません。
色の検証
簡単な説明:
Netflixのデイリーツールでは、クリップごとにリファレンス画像が提供されている場合、レンダリングされたデイリーの色を撮影現場で適用された色と比較することができます。リファレンス画像がない場合、コンテンツハブMPSでは、デイリーのレンダリングが撮影現場で適用された色の意図と一致しているかどうかを検証できません。
リファレンス画像の仕様:
リファレンス画像の形式がJPEGまたはTIFFで、オリジナルカメラファイルおよびAMFと共にアップロードされている場合、その画像を使用して、適用されたルックが撮影現場の画像と一致しているかどうかの追加検証ができます。
要件:
- 画像に焼き込みがない
- 例: 画面上にGUIモニターデータが表示されているライブ映像からのスクリーンショットは不可
- すべての色変換が焼き込まれている
- フレーミング:
- 16x9のコンテナにすべて収まる (トリミング/拡大縮小は不可)
- 画像がOCFの最初のフレームに一致する
- サポートされるファイル形式: JPEG、TIFF
- 解像度: 1920x1080以上
- 画像の名前がオリジナルカメラファイル名に基づいている (付け足しが無い)
-
例: A001C001.jpg (「A001C001.1001.jpg」は不可)
-
付録:
ACESと、最適なルックの実現
アカデミーカラーエンコーディングシステム (ACES) フレームワークは技術規格のひとつであり、ルックではありません。デフォルトの「ルック」は、他の多くのシステムと同様に、レンダリング変換 (ACESの用語で「RRT」) に埋め込まれた技術面およびクリエイティブ面での決定事項により決まるものであり、すべてのプロジェクトに当てはまるわけではありません。希望のルックを実現するために、LMT (Look Modification Transform) を使用してスタイルや雰囲気をクリエイティブに変更したり、あるいは他の有名なカメラやソフトウェアのカラーシステムを知覚的に正確にシミュレーションすることも可能です。
Netflixは制作関係者と協力しながら、作品固有のワークフロー構築を支援しています。ご自身の作品に固有の事項について質問や心配な点がある場合は、Netflix担当者までご連絡ください。