Netflixは、吹替版を単なる他言語用のアセットとしてではなく、ひとつの作品として捉えています。最高レベルのクリエイティブエクセレンスを実現するために、吹替作品の制作にあたっては、これまで一般的とされてきた慣習を超えるような仕事をしていただきたいと考えています。私たちが目指すのは、できる限り元の作品のビジョンに沿ったかたちで他言語版を制作することで、コンテンツ制作者との信頼を築くことと同時に、違和感のない体験を提供して視聴者を「言語的不信の停止」状態に置くことで、視聴者との間に信頼関係を築くことなのです。
吹替作品において、高いレベルでクリエイティブエクセレンスを実現するために、Netflixでは以下のようなことを大切にしています。
- 元の作品における創作意図の文脈を理解すること
- 制作ワークフローのあらゆる側面において、ダイバーシティ、公平さ、インクルージョンの観点から適切な表現がされていること
- セリフがターゲット言語で自然に聞こえるように言い回しが調整されていること
- 高精度のリップシンク
- 真に迫った演技
- オリジナルのサウンドトラックとセリフ音声が自然に溶け込んだ臨場感あふれるミックス
以下に、吹替制作工程におけるクリエイティブ系職種に向けた全般的な指針と、
コンテンツのジャンルや種類ごとのクリエイティブ面における指針について説明します。
Key Moments:
視聴者に吹替版を楽しんでもらうためには、まず作品を見続けてもらうことが重要です。
特に冒頭15分間は、優れた吹替品質によって視聴者の興味を引きつける必要があります。
そのため、私たちは“Key Moments”という形で、吹替品質が視聴体験に大きく影響する重要なシーンを事前に提示します。
Key Momentsでのリップシンクに求められる基準:
- オリジナル音声の波形を厳密な基準として使わないでください。 リップシンクの判断においては、映像を主な参照元としてください。
- リップシンクを改善するために台詞を工夫してください。 基本的な意味や意図が維持される限り、より自然な言い回しや口語表現に置き換えることを推奨します。
- 口の動き(フラップ):
- 特に長めのセリフではすべての口の動きを丁寧に反映させてください。
- セリフは口の動きの開始と終了に正確に一致している必要があります。
- 口唇音(Labials)(例:英語の“m”“b”“p”“w”などの口を閉じて発音する音):
- 口を閉じて発音する音(Labials)を無視しないこと。
- 特に“w”は独特の口の形を取るため、Labialsとして例外的に扱うべきです。
- 準口唇音(Semi-labials)(例:英語の“v”“f”などの完全には口を閉じ図に発音する音)
- Labials(m、b、p、wなど)をSemi-labials(v、fなど)に置き換えないでください。(口元が見えていない場合を除く)。
- 開口音(例:英語の “a, e, i, o, u” や、二重母音によって構成される音)は、それぞれ異なり、固有の口の形を持っています。
- 訳出や台詞選びは、これらの口の形をできる限り正確に反映するようにしてください。
Key Momentsはコンテンツの冒頭15分に限定されるものではありませんが、その多くは作品の前半部分に登場します。
これらのKey Momentsは、2024年後半以降に(PL)DLおよびショーガイド内で明記される予定です。
本件については、各地域のLanguage Production ManagerまたはDubbing Managerが順次フォローアップを行います。
指針:
吹替演出やアートディレクターは、まさに船の船長のような存在で、クリエイティブ面の戦略を実行し、プロジェクト全体を成功に導く責任を負っています。編集者やミキサーと一緒に録音された音声すべてを聞いたうえで、統一感のあるリアルでクリアな吹替音声をつくるのがその役目です。演出が目指すべきは、脚色レビュー、キャスティング、パフォーマンスノート、ピックアップ録音、ミックスレビューといったすべての工程を通して、オリジナルコンテンツ制作者の芸術的意図に可能な限り寄り添うとともに、現地の視聴者にとって元々その言語で制作された作品と思えるような吹替版を制作することです。
その他の推奨事項:
- 演出は、脚色、キャスティングディレクター (予算が確保されている場合)、声優、ミキサー (可能な場合)、制作パートナーのプロジェクトマネージャーに対して、明確で達成可能な目標を明示する必要があります。
- 演出は、チームメンバー全員がそれぞれの力を発揮して協力し合えるようなポジティブな環境をつくらなくてはなりません。無礼な態度や行為は一切許されません。
- 演出とパートナースタジオは、制作スケジュールと予算を常に意識し、時間当たりのループ/字数の記録、付随的なコンテンツ向けのキャスティングとスケジュール管理、必要となったピックアップ録音の確認などを行う必要があります。
- プロジェクト終了後にレビューや分析を行うときのために、演出はスタジオと協力して書き換えられたセリフを正確に記録しておく必要があります。
-
演出は必要に応じて、収録前に翻訳者や脚色担当者にフィードバックを与えてください。作品によっては、パートナースタジオとNetflixランゲージプロダクションマネージャーが事前に「キックオフミーティング」を計画し、そこでショーガイドでは取り上げられていないような質問、疑問、提案について話し合います。可能であれば、吹替用台本の読み合わせ (シリーズ作品の場合は最初のエピソードのみ) を行うことも推奨します。
- 収録期間中に新しくセリフが追加されたり修正された場合には、演出はスタジオと協力して、その内容について脚色担当へフィードバックを行ってください。また、発音やKNP、クリエイティブ面において考慮すべきその他の事項などについても、一貫性を保つように注意してください。
- 初めの数シーンやシリーズ初期のエピソードを収録した後、キャラクターや全体的なトーンが確立してきた時点で、演出は収録した音声を確認し、録り直しをする必要があるか検討します。
指針:
翻訳や脚色を細部まで綿密に行うことは、吹替演出やアートディレクターの役割と同じくらい重要です。なぜなら、脚色が優れていなければ、費用のかかるスタジオ収録中に内容修正で余計な時間がかかってしまったり、文化的に誤った情報を提供したために視聴者からの苦情を受けたりメディアからネガティブに報道される可能性があるからです。
脚色担当は、セリフを作成する際には以下のことについて考慮しなくてはなりません。
- 元の作品の創作意図を尊重する。
- 文化的に重要な要素を尊重したうえで、必要に応じて自分たちの言語や文化に合わせて適切に翻案する。
- リップシンクを限りなく"完璧"に近づける (ボイスオーバーの吹替は除く)。
- 言葉遣いや言い回しについて、言語的中立性を考慮したうえで、ターゲット言語で自然に聞こえるようにする。
-
人種・民族、LGBTQIA+、障害・疾病など、センシティブなテーマを扱う際は、言語別のガイドライン (要ログイン) を参照し、セリフの意図や文脈および背景設定などを考慮して適切に翻訳に反映させる。
指針:
声量、声の高さ、発音の明瞭さ、アタックなどは言語によって大きく異なるため、オンスクリーンタレントとの完璧なボイスマッチは、必ずしもキャスティングを行う際の最優先事項とはなりません。その代わり、対象視聴者の期待に沿って、キャラクターの属性に適した声をキャスティングする必要があります (たとえば、ある言語におけるキャラクターの声域が、必ずしもターゲット言語でも同じような効果があるとは限りません)。また、ボイスマッチを演技より優先させることがあってもいけません。ボイスオーバーのセリフを残さなければいけないなどの特殊なケースでは、優先順位が異なる可能性もあります。
キャスティングは主観的なプロセスなので、吹替演出は、パートナースタジオのクリエイティブチームと協力したうえでキャストを決定しなくてはなりません。注目作の場合は、元の作品のクリエイティブチームの指導のもとで行うか、Netflixのランゲージプロダクションマネージャーと協力して行う必要があります。
登場人物のアイデンティティについても、正確で現実味のある描写をする必要があります。単に画面上の俳優に合った声優を選ぶのではなく、あらゆる作品において、可能な範囲でインクルージョンとダイバーシティを考慮したキャスティングをする努力を怠らないでください。
視聴者に没入感を与えるためには、キャラクターの年齢層にマッチした声優を起用することが不可欠です。特に、未成年や高齢のキャラクターの場合は、画面上のキャラクターと同じような年齢の声優が理想です。いつもそうできるわけではないことは理解していますが、市場の成長に呼応し、制作パートナーや声優業界が新しい声優の育成に取り組むことを強く推奨しています。
指針:
声優に求められるのは、視聴者に自分自身の声や演技を意識させず、画面に溶け込むような演技をするという特殊なスキルです。キャラクターの動機や背景を理解して内面からそのキャラクターを忠実に体現する一方で、リップシンクに限らず、画面上のキャラクターの体の動きを外側から詳細に観察することが、吹替声優の大事な仕事です。
優れたリップシンクとは、口の動きを正確に合わせるだけでなく、オリジナルの演技が持つエネルギー、抑揚、音量、声の張りまでを再現し、呼吸やブレス、エフォートにも細心の注意を払うことを意味します。
全体を通して高いリップシンク精度を目指すべきですが、特に『Key Moments』においては最優先で対応してください(詳細は「Key Moments」セクションを参照)。
ノンフィクションやスクリプトのないコンテンツの場合、リップシンクは問題になりませんが、ボイスオーバーが単に翻訳をのせた音声にならないよう、作品の創作意図を十分に考慮したうえで視聴体験を後押しできるようなものにしなくてはなりません。
その他の推奨事項:
-
秘密保持契約書 (NDA) に署名した後、声優にはNetflix承認済みのツールを通じて、収録台本と映像への制限付きかつ安全なアクセスを提供することが可能です。このアクセスはセキュリティ上のベストプラクティスに基づいて管理されるべきであり、特に複雑な役柄や楽曲など、事前準備が品質向上と収録効率の向上につながる場合に限定して提供されることを想定しています。なお、High Security Projectsにおいては、ダビング・タイトル・マネージャー(DTM)の追加承認が必要となります。
- 技術マネージャーや指示を受けた録音技師の監督のもと、事前に合意され、テストも行った場合に限り、声優は録音ブースの中で、画面上の演技に合わせて体を動かしてマイクとの距離を変えたりすることが許されます。この場合も、十分な録音ボリュームが確保されていることが条件です。これはリップシンクが必要な吹替作品にのみ適用されるもので、ボイスオーバー作品には適用されません。
- シリーズ作品の場合、演出はできる限りエピソード1のプリミックスを確認したうえで、その後のエピソードのトーンを決めるようにしてください。
指針:
優れたミックスというのは、吹替のセリフを元の作品の音に限りなく近づけたものです。吹替の音声というのは、オリジナルの音声とはまったく異なる方法で録音されるため (元の作品がアフレコの場合を除く)、セリフがオリジナルのミックスの"上"や"前"に重なって聞こえないよう、元の作品の物理的な環境や美的環境に溶け込むようにすることが重要です。
吹替版制作の最終工程であるミックスの仕上がりが悪いと、それまでの制作プロセスすべてが台無しになってしまいかねません。そのため、納品前に音声QCをしっかりと行う必要があります。
その他の推奨事項:
- ミックスの前に、セリフの編集作業をしっかりと行うことを推奨します。
- Netflixは、一般的な手法が常に最善であるとは限らないことを理解しています。そのため、スタジオパートナーや音声担当者の皆さまには、より優れた最新の手法を学び、探求し続けることを奨励しています。
多言語作品および吹替における外国語セリフの取り扱い
|
指針:
シリーズ、番組、映画などで、ストーリー上重要な非主要言語(外国語)のセリフや複数言語が頻繁に登場する場合、ショーガイドで別途指示がない限り、できる限りターゲット言語(吹替言語)で吹き替えることが推奨されます。これは、オプショナルトラック(原音)と吹替音声との間で頻繁に切り替わることで視聴体験が分断されるのを防ぐためです。強制字幕(FN)が多用される状況は、基本的には避けるべきです。
登場人物同士が言語を理解し合っていないことがストーリー上の要素になっている場合(例:同時通訳が挟まれるような場面)、外国語のままにする必要があるケースもあります。
ただし、そのような場合でも、オプショナルトラックと吹替音声が混在して視聴体験を損なうことがないようにするため、ダイアログコーチのサポートを受けながら外国語部分を再吹替(リダブ)することが必要となる場合もあります。
また、セリフの中で登場人物が言語や文化の違いについて明言するなど、翻訳・適応の観点で工夫が求められる難解な会話も存在します。そのような場面では、原音のセリフに忠実であることに固執せず、吹替として自然に聞こえるように“意図的に踏み込んだ脚色"を行うことが推奨されます。
なお、外国語セリフや多言語が含まれるコンテンツの取り扱いについて判断に迷う場合、特にオリジナルバージョンとの整合性を考慮した際に全吹替が難しいようなシーンがある場合は、必ずNetflixに事前相談し、
本ガイドラインの核であるクリエイティブエクセレンスを損なわないための最善の吹替方針を協議してください。
コンテンツのジャンルや種類ごとのガイドラインと推奨事項
|
Was this article helpful?
0 out of 0 found this helpful